私好みの新刊 2018年5月
『もしも月でくらしたら』 山本省三/作 WAVE出版
近年の月面研究成果によると,今までSFの世界だった月移住もかなり現実味
を帯びてきている。2007年に打ち上げられた日本の月探査衛星「かぐや」のデ
ータ分析から,月面に大きな空洞のあることが分かったからだ。空洞内であれば,
昼の高温や放射線被害もかなり防げる。どうやら月での生活はそんなに遠い夢で
はなさそうである。この絵本はそうした研究成果をもとに,月面での生活の様子
を楽しそうなイラストを交えて描いている。「ぼくたちかぞくは、月に ひと月間
くらすことに なりました。・・・。月で ドライブしたときの ようすを
しらせます。こんど みんなで 月に 遠足に いきたいですね。モグラマンシ
ョン307号室 望月満」と,こんな案内が最初に書かれている。まずはマンショ
ンの部屋の中。一日中真っ暗なはずなのに,ちゃんと昼夜の外の景色が映し出さ
れている。体内時計のリズムを壊さないためだ。マンションには人工栽培の野菜
畑もある。月では肉や魚の代わりに食べるものは……バッタなどの昆虫だとか。
なるほど手軽な蛋白源だ。月での重力は地球の1/6,お料理も気をつけなくては。
いよいよ月面車で外出の用意。月面車と言ってもまるで空気袋。空気のない月面
で動けるようにいろいろと工夫がこらされている。もちろん電気車。ドライブは
夜に出かける。夜の方が宇宙線も少ないし気温もしのぎやすいからだ。夜といっ
ても2週間続くので(もちろん昼も)ゆっくりと旅ができる。シェルター内で下車。
宇宙服に着替えて外出だ。月面の砂は細かく足跡がつきやすい。みんなで記念の
足跡をつけておく。月ではもちろん太陽光発電,雨も曇りもない快晴続きで発電
には好都合である。月にはずっと日陰の場所もある。そこには氷がありそうで将
来は水や酸素が取り出せるかも知れない。月面は火星探査基地にも考えられてい
る。息抜きにテニスを楽しむと珍プレーの連続だ。月面での生活にいろいろと空
想の輪が広がって楽しく読める。 2017年12月 1,300円
『まるごと ほうれんそう』 八田尚子/構成・文 野村まり子/構成・絵
絵本塾出版
本書は「絵図解 やさい応援団」シリーズの一冊。2012年に『まるごと キャベ
ツ』が出て以来「かぼちゃ」「だいこん」「えだまめ」など,すでに7冊が出ている。
しかも,著者はずっと同じ八田尚子さん。フリーのライターで「食」や「農」の著
作を続けられている。監修の大竹道茂さんも伝統野菜の専門家である。内容は,それ
ぞれのテーマについて植物の形態から生育の特徴,原産地の紹介やほうれん草文化,
栽培の仕方や生産高,食べ方や料理の仕方まで総合的に取りあげている。それに野村
まり子さんが描く淡い感じの挿し絵がより一層内容を親しみやすくしている。
この『まるごと ほうれんそう』では,はじめにいくつもの葉の中から「ほうれん
そうは どれ?」と聞いてくる。葉もの野菜はどれも似たりよったり,はたしてほう
れん草はどれだろうか迷う。ほうれん草はなに科かと問う。アブラナ科ではなし,き
く科でもない,「ヒユ科」だそうだ。「ヒユ科」はあまり野菜にはない。イランが原産
地とのこと,日本にはイランから中国を経て伝わった東洋種のほかにヨーロッパ経由
の西洋種などがある。次にほうれん草畑が出てくる。西アジアのアルカリ性育ちのほ
うれん草栽培には,酸性土質にならないようにして農家では栽培されている。土の中
の根や肥料の説明もわかり易い。肥料の吸収には微生物の働きも大きいとか。ほうれ
ん草には雄株と雌株があるが,こうした雌雄異株は野菜では珍しい。次はほうれん草
の栄養についてくわしく書かれている。ほうれん草のビタミンCは,冬は夏の3培に
もなるという。ほうれん草の生育にも活性酸素がかかわっているらしい。よく知られ
ているようにほうれん草はビタミンやミネラルが豊富で黄色野菜の王様である。続い
て「日本のほうれんそう」の話へと続く。生産量のグラフもある。今は〈冷凍ほうれ
ん草〉も作られているとか。「ほうれんそう料理」の話では,オーブンで焼いて…と
しゃれた料理も紹介されている。ポパイ鍋っておいしそう。
2017年11月 1,600円